ストーリー

倒れても、戦い続ける。キャンバスの中で

ニュージーランド学生選抜の見舞いを受ける岡部少年=1967年3月、大分県別府市

1965年10月、福岡県立福岡工業高校2年でラグビー部員の岡部文明は、岐阜国体の試合前日、スクラム練習中に頸椎脱臼骨折というアクシデントに見舞われた。両手両足の自由を失い、入院生活を余儀なくされた少年は絶望の淵に立ち、途方に暮れる日々だった。
そんなある日、来日中のニュージーランドラグビー学生代表(NZU)の4選手が、試合の合間を縫って大分県別府市で入院中の岡部少年を見舞いに訪れた。選手の名は、ウィリーメント(M.Williment)、リーニー(S.H.O. Reaney)、ブラウン(M.T.Brown)、アッシャー(R.J.Ussher)。

2016年の作品と岡部文明

憧れの選手たちの激励を受けたことは、先の見えないトンネルの中にいた少年にとって大きな転機になった。
「自分もラガーマンの一人なんだ」
誇りと自覚が再び芽生え、暗中模索の日々に光が差し込んだ。70年に画家を志し、サーカスで出会ったピエロをテーマに73年から描き続けている。

ラグビーW杯ニュージーランド大会開催中の2011年に同国で開かれた「岡部文明展―愛と平和のメッセージ―」

筆を手にしてから約50年。国内外で個展を重ね、「愛と平和のメッセージ」の象徴であるピエロをモチーフとする作品は数々の賞に輝いた。2011年のラグビーワールドカップNZ大会では、大会期間中に同国ポリルア市の「パタカ美術館」で岡部文明展が開かれた。ラグビーの本場であるニュージーランドで作品を披露し、失意の病床を見舞ってくれたNZUのメンバーに対する感謝の思いを伝えたい、という積年の願いをかなえることもできた。
フィールドでプレーしたのはわずか1年半だったが、岡部は「ラグビー精神」を学び取った。それは「倒れても、倒れても立ち上がり、前に進む果敢な精神力」。四角いキャンバスに絵の具を塗り込みながら、少年は今も走り続けている―。

岡部文明(おかべ ぶんめい)

画家 1948年11月、福岡県生まれ。ラグビーに打ち込んでいた福岡工業高2年時、岐阜国体の練習中に負傷し、両手両足の自由を失う。入院生活を強いられたが、ニュージーランド学生代表(NZU)の見舞いを受けて奮起。曲折を経て画家を志し、ピエロを終生のテーマとする。ピエロやサーカスを訪ねて世界を旅し、国内外で個展を開催。岐阜県芸術文化顕彰特別賞、第82回独立展芝田米三賞などを受賞している。海外での個展は、1988年に旧ソビエト時代のモスクワ・サーカス劇場で「岡部文明の描くピエロの世界展」を開催。2011年には、ラグビーW杯開催中のニュージーランド、パタカ美術館で「岡部文明展―愛と平和のメッセージ―」を開催。自身を見舞ってくれたNZUメンバーと再会を果たした。また、12年に岐阜国体から47年ぶりに岐阜県各務原市で個展を開催した。著書に『ピエロよ永遠に』(朝文社)『ピエロの画家 魂の旅路』(小学館)、絵本『ピエロになった王様』(小学館)などがある。独立美術協会準会員。

画歴

  • 1970年

    独立美術協会会員、故 熊代駿氏に師事

  • 1973年

    ロシアのサーカスを見てピエロに共鳴、以来ピエロをテーマにした絵を発表し始める

  • 1974年

    福岡県展 奨励賞

  • 1975年

    福岡市美術展 洋画奨励賞

  • 1976年

    福岡市美術展 奨励賞

  • 1978年

    独立展初入選(以後2018年まで39回入選)、個展(東亜画廊 福岡)
    渡米(ピエロ養成学校を訪ねる)

  • 1983年

    福岡市美術展 奨励賞、ヨーロッパ各地(13ヶ国)にサーカスとピエロを訪ねる

  • 1986年

    独立美術協会会友、福岡県美術協会会員となる、個展(ギャラリーSEL 福岡)

  • 1988年

    旧ソビエト文化省、サーカス公団主催「岡部文明の描くピエロの世界展」をモスクワ新サーカス
    劇場及びドゥーロワ動物サーカス劇場で開催(16年間の作品100点が展示される)

  • 1990年

    著書『ピエロよ永遠に』出版(朝文社刊)、紀伊国屋福岡店にて出版記念「ピエロの顔」展

  • 1992年

    岡部文明展-ピエロを描く-20年の軌跡(埼玉県立近代美術館)

  • 1993年

    岡部文明展-風化シリーズより-(福岡市美術館 特別展示室B)

  • 1996年

    「英展」(田川市美術館大賞展)招待出品 佳作賞、ヨーロッパ各地にサーカスとピエロを訪ねる

  • 2003年

    絵本『ピエロになった王様』出版(小学館刊)

  • 2005年

    岡部文明展-ピエロを描く-30年の軌跡(府中市美術館 東京)

  • 2007年

    福岡市美術展洋画部門の審査員に推薦される

  • 2011年

    ニュージーランド、ポリルア市のパタカ美術館主催「岡部文明展-愛と平和のメッセージ(LOVE AND PEACE)-」が3ケ月間同美術館で開催される(50点展示)

  • 2012年

    「英展」(田川市美術館大賞展)招待出品

  • 2013年

    岐阜県芸術文化顕彰特別賞受賞、回想録『ピエロの画家 魂の旅路』出版(小学館刊)

  • 2014年

    個展(みゆき画廊 東京)、第82回独立展 芝田米三賞受賞、独立美術協会準会員となる

  • 2015年

    日韓美術交流展出品(釜山)

  • 2017年

    第85回独立展 佳作賞受賞

作品収蔵

ロシア文化財団、モスクワ市庁舎、モスクワ新サーカス劇場、モスクワニクーリンサーカス劇場、モスクワ猫劇場、フロリダ州立リングリング美術館・サーカス博物館、シルク・ドゥ・ソレイユ(カナダ)、ウファサーカス劇場(ロシア)、ニュージーランドラグビー協会本部、日本ラグビー協会本部、岐阜県各務原市庁舎、福岡県糸島市庁舎